第82回 人形焼(東京都墨田区)
2022/08/27 ぽっこりお腹がなんとも愛らしい。江戸の伝承話「本所七不思議」に登場する狸をモチーフにした山田家の名物。昭和26(1951)年、卵問屋として創業した先代が地元にちなんだものをと、浅草の人形焼をヒントに創製した。
手に取ると、ずしりと重い。薄い生地の中に薄紫色のこし餡がぎっしり詰まっている。餡はみずみずしくさらりとした舌触り。すっきりした甘さが優しい風味の生地となじみ、一つ食べたらまた一つとつい手が伸びてしまう。「おいしいものを安く、たっぷり」という下町気質が生んだおいしさだ。
生地には濃厚な奥久慈卵と良質な蜂蜜を使用。餡は北海道小豆を極限まで削ってザラメとアルカリイオン水で炊き上げる。保存料、添加物を使っていないため賞味期限は4日。1日目はふっくらと香ばしく、2日目は餡の水分が皮へ浸透し、しっとり感が楽しめるという。狸のほかに三笠、太鼓、餡なしの紅葉がある。漫画家の宮尾しげを氏が描いた「本所七不思議」の包装紙も味わい深い。